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嘘つきのヒーロー

第14章 緩やかな時間


【心操人使side】

幻想が不審者に接近されてから、俺の土曜日の予定は埋まるようになった。


「ほんとにいいの?」


土曜日、
待ち合わせをした寮の前で、幻想はそう言った。


「俺が言ったことだから、気にしないで」

俺がそう言っても幻想は申し訳なさそうな顔をしている。


「取り敢えず行こうよ」
そう声をかけると幻想は頷いた。




横を歩く幻想姿を見ると、いつもよりだいぶ印象が違う。

淡い白色のワンピースに、シンプルなカーディガンを羽織っている。
決して派手な服ではないが、幻想の華奢な線がそれらを引き立てた。


今の状況…上鳴が聞いたら悔しいだろうな。



そんなことを考えながら幻想の顔を見ると、
整えられた身なりには似つかわしくない顔をしていた。



「お前、ちゃんと寝てんの?」

そう声をかけると幻想は目を細めて笑う。


目の下にはクマが濃く目立つようになっていた。

「寝てるから大丈夫、ありがとう」


何度も聞いた、幻想の“大丈夫”は
口癖なのだと最近理解した。



「…そっか、でも毎週実家帰ってるなんて知らなかったよ」

「実家って言っても、私両親居ないからおばあちゃんだけだけどね」


そう言うと幻想は少し寂しそうな顔をする。


「おばあちゃん一人じゃ心配だから、週末は様子見に行ってるの。そんなのいいって言われてるんだけどね」



幻想がそう話し終えると、間が空いてしまう。



そういえば俺こいつのこと何も知らないんだな。
女子と二人って何を話したらいいんだ



そう考えていると幻想はふと口を開く



「小さい頃…、よくおばあちゃんがご褒美にくれたチョコがあったんだけど」


脈絡もない話題に幻想の顔を伺うと、少し恥ずかしそうな顔をしていた。


「最近になってそれが近所のスーパーでもらえるおまけだって分かったの、それまでずっと高級なチョコだと思ってたのに」

「お、おう」

「だから、この間奮発して本物の高級なチョコたくさん買ったの」

「…どうだった?」

「……もうぜんっぜん違った」


そう言って幻想は味を思い出したように、
幸せそうな顔をした。
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