第10章 嫉妬
なんだよ、その顔
「俺…一年の時、あいつとよくペアになってたんだよ。最近はあんまり話さないけどな」
そう言って上鳴はふと幻想の方を見る
「最近、あいつ調子悪いから声かけてるんだけど、俺には笑って答えるだけで何も教えてくれないだ…」
そう言ってらしくもなく真剣な顔をした。
胸の奥が何だか嫌な感じで疼く。
なんなんだよ。
「随分幻想に惚れてるんだね」
わざと上鳴が嫌がるようにそう言っても、上鳴は照れ笑いするだけで否定しない。
それを見てますます腹が立った。
「…俺、戻るから」
そう言って俺はその場を後にした。
なんなんだあいつ、幻想の事好きなのか。
そう考えると何だか胸の辺りが嫌な感じがする。
だけど上鳴は…
幻想を心配する気持ちを行動に移しているんだ。
その一方、俺は事情を知ってるのに何もしていない
上鳴に腹立てて…何してんだ
でも、心配かけまいとしている幻想に俺が声をかけたりしたらお節介かもしれない。
あいつの、ヒーローとしてのプライドを傷つけるんじゃないか。
幻想が隔てているものに、俺が踏み込んでもいいのか。
俺が幻想だったらそれが哀れみだと感じてしまうかもしれない。
『お前は自分で自分の事も守れないのか』と
そう考えてしまうと、幻想に声をかけることができなかった。
俺は消化できない感情を抱えたまま一日を終えた。