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嘘つきのヒーロー

第8章 焦り


【心操人使side】

特訓が終わっても悶々と同じことを考えてしまう
俺はそれを晴らそうとしてランニングに出ていた

走っていてもふと先生の言葉を思い出す



『 焦ったって、今以上の自分になれるわけじゃない 』



今以上の自分…か



幻想はその個性から攻撃力は高くない、未発達の女子の身体では男子に比べて制限されることも多いのだろう


だけどあいつは確かに強い

状況把握能力、判断力、統率能力
対敵(ヴィラン)戦闘でも、救助活動でもあいつの存在は大きかった。


それにあのノート…

きっとあいつは自分の個性の弱点をよく理解している。…理解しているからこそ多くのヒーローを観察して、分析して上を目指していた





編入してA組の生徒を観察するとよくわかった。
幻想叶はA組の中でも一目置かれる存在であることに。


だからこそ相澤先生の言葉は何か引っかかった。


「…焦るって、なんのことだ」



相澤先生には幻想が焦っているように見えるのか?
だとしたら幻想は何を焦っているんだ?





俺と同じようなハンデでも、あいつの方が遥かに上を行っている



「…くそッ…」


そう考えると焦ってしまうのは俺の方だ。
俺の方が幻想の何倍も焦らなければいけない。



結局寮に帰ったのは門限ぎりぎりで、共有スペースはとても静かだった








「ん…?」

共有スペースに入ると、ソファに人影があった。

こんな時間に…


恐る恐る人影が誰なのか確認する。



幻想だった。
ソファで寝てしまったようで、すうすう寝息を立てている。



起こした方がいいよな…
そう考えたが、思わず顔を見つめてしまう。



さらりとした髪に、白い肌。
脱力した体はそこにあるだけで華奢な線を描く。


それを見て、色んなことが浮かんでは消えた。







「おい、おきろよ、おい」

その感情に蓋をしてそう声をかけると、幻想はうっすらと目を開けた。


「ん……心操…」

「風邪ひくよ」


幻想が起きたことを確認して部屋に戻ろうとする。

しかし、ちらりと幻想を確認すると全く立ち上がる様子がない



「部屋…、戻んないの?」

声をかけると幻想は俺の顔を見つめて、俯いた。


「あんまり…戻りたくなくて…」

そう言う幻想の顔は昨日と似た、怯えたような顔だった。
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