第5章 いざ高専へ
「お母様はこれまであたしを育てるために五条家に仕えてきたでしょ? でも呪術師になったら経済的な面での心配はいらなくなるから」
「あなたひとりをお嫁に出すくらいの蓄えは十分にあるの。お金の事なんて心配いらない」
「お母様にはリタイアしてもらってゆっくり好きな事をして過ごしてもらいたいの」
「五条家で働くことが嫌なわけではないから、リタイアは考えていないわ」
全く聞いてくれない。人を助けたいとか、呪術が折角使えるんだからそれを活かして仕事をしたい、とか思いつく動機を全て話してみるけど首を縦には振ってくれない。
ふてくされてあたしは離れに行きベッドに横たわった。お母様もなかなか強情だ。何がそんなに気に入らないんだろう。あたしが寮に入っちゃったらさみしいとか?
メールするよ! 電話もするし!
でもお母様、そんなに娘に依存してないよね。どちらかというとしっかり子離れ出来てる母親だと思う。
はぁぁ。
深いため息をついて仰向けから横向きになると、カチャと部屋の扉が開いた。お母様だ。寝そべるあたしに近寄ってきてベッドの縁に座る。今日は早く仕事を終えたんだと話す。その手がそっとあたしの頭へ。どうしたんだろう? 髪を撫でられるのはもう随分と久しぶりだ。
「夕凪、大きくなったわね」
「え、あ、うん。おかげさまで。五条家の食べ物がよかったからかな」
「そうね、坊っちゃまと同じもの食べて大きくなったものね」
お母様が微笑む。五条家の食事は悟くんたち家族と使用人は一緒の卓で取ることはないけど、特別な行事などがない限り食べてる食材や味付けはほぼ同じだ。
素材はいいものを使ってるけど、シンプルな和風だしをベースにした健康的な食事が多い。だけど悟くんが食べ盛りになると奥様が自ら料理をされたり、さらに高品質の食材を指示される事が増えて、そんな時は「なぎちゃんも成長期でしょ? たくさんあるから食べて」とあたしにも悟くんと同じ発育に必要な栄養バランスのいい食事を出してくれた。