第5章 いざ高専へ
お母様にはここまで育ててもらったことを感謝している。お父様を亡くしてからあたしを女手一つで守り、五条家に仕えて経済的な基盤を作ってくれた。
五条家に住み込む事になってからは礼儀や作法を教えられ、わがまま言ったり目上の方へのふるまいが失礼だったりすると、きつく叱られた。それは15歳になった今でもそう。ここで暮らす上で最低限必要な事だとお母様は言う。
少しでも五条家の役に立つようにと小さい頃からお手伝いもたくさんさせられた。そのおかげで、今では使用人の仕事はほぼ何でも出来て、頼まれる事も多く、暇な時は手伝ったりする。
お盆の時も、途中で離れに戻っちゃったけど、出迎えの準備から会食のお手伝いまで動き回って、そこそこ戦力になってたんじゃないかなぁ。
「いつもありがとう」って上女中さんからお駄賃もらう事もあって、あたしにとってもなかなか良いバイトだ。
五条家に来たばっかりの頃は帰りたくて泣いてばかりいたあたし。悟くんに泣かされてお母様にぎゅーっと抱きつくと、優しく背中や頭を撫でてくれて「坊っちゃまは夕凪のいいところが見えてないだけよ、きっといつかわかってくれる」って励ましてくれた。
お母様は、いつも忙しそうで、構ってもらえなくて、甘えたい時に甘えられなくて、寂しい思いをした事もあったけど、ぽつんとしてると悟くんはよくちょっかいを出してきたから、暗く落ち込んでる暇もない。
なんだかんだこの10年、あたしは五条のお屋敷の中で周りの人達に目をかけてもらいながら生きてきたんだと思う。それは周囲から可愛いがってもらえるようにあたしを躾けてくれたお母様のおかげだ。
だから、なるべくお母様を悲しませるような事はしたくない。あたしは進路を納得してもらえるよう懸命に説得した。