第4章 抱擁
物理的に離れたことは2人にとって良かったと思う。
あたしと悟くんは小さい時からこれまでずーっと一緒にいた。まるで家族のように毎日顔を合わせる。赤の他人とはいえ、何年もそんな生活が続くと、言わなくてもわかるだろっていう空気が流れるようになって、コミュニケーションがすごく曖昧になるんだ。大事な事は言わなくなるっていうか。
ほら、家族って、なかなか面と向かって、いつもありがとう、感謝してますとか言わないでしょ? それと同じ。
それに相手のいいところも当たり前になって見えにくくなっちゃう。さっきの使用人の話みたいに、悟くんの優しさに気付かなくなる。まぁ彼は口が悪いからってのもあるんだけど。悟くんも、お屋敷を離れて、携帯のこと謝ってくれて、前よりもあたしに対して穏やかになったような気がする。
こうやって離れてみて、あたしたちは少し冷静にお互いの事を見れたのかな?
そして悟くんはどうかわからないけどあたしは感じた。あんなに嫌いだったのに、悟くんがいないとどこか寂しいって事を。