第4章 抱擁
「これ、高専で使ってる携帯の番号な、登録しとけ」
電話口でいきなり彼は偉そうだったけど、心の応答ボタンONにしたばっかだし、「うん」ってひとまず返事する。それから少し間があった。話題を考えてるような、何から話そうか迷ってるような、そんな感じ?
「ゆうなぎー? 新機種どう?」
「え? あ、まあ、いいかな、そりゃ最新だから」
「だろ? よかったな、俺が最新のにしてやってって言ったから――」
自慢げに話が続いてる。なに? あたしのこと煽ってるの? 自分が壊しといて、恩着せがましく、ありがとうとか言わせようとしてんの?
気分が悪くなった。やっぱり悟くんは悟くんだ。高専に行っても変わってない。
「用事がないなら切るね、じゃ――」
「ちょーっと、待って……。あーもう、わかってるから傑はあっち行っとけよ、今から言うんだよ」
電話の奥で悟くんじゃない男の人の声が聞こえる。傑さんっていうのかな? その人と話してるつもりなんだろうけど、こっちまで会話がダダ漏れだ。
「なぁ、夕凪」
「なに?」
「あぁ、夕凪の携帯の事だけど……壊してごめん。俺が悪かった。あれは全部俺のせい。ほんとにごめん」
聞こえてきた言葉に驚いた。え? 悟くんがあたしに謝ってる? しかも100パー自分が悪いって。いつもイラつく理由をあたしのせいにしてた悟くんが、全面降伏してる!
びっくりしてしまって、あたしは息を吸い込んだ後、黙り込んでしまった。なんて言葉を返していいのかわからない。電話の奥の方から聞こえてきたのは悟くんの喚いてる声だ。
「おい! 傑! どーなってんだよ、夕凪黙っちまったじゃねーかよ」
「戸惑ってるんだろう。そんな風に悟が謝ることに」
「普通喜ぶんじゃねーの?」
「さぁ、君が謝るなんて驚いて気を失ってるかもしれないね。彼女にとってはそれくらいの大事件だろうから」
なんだか悟くんの様子が目に浮かぶようで可笑しくて、聞こえてくる傑さんとのやり取りが楽しくて、一気に明るい気持ちになった。
あたしはとっても嬉しかった。携帯を壊した事を謝ってくれた事もだけど、そうやって悟くんにきちんと物事の善悪を教えてくれる友達が高専で出来たんだってことが。
「いいよ、許す」
あたしは悟くんを許した。