第16章 ★ Sweet Memories
――それから数日後。そろそろ日付が変わろうかという深夜。ベッドのヘッドボードにもたれかかって、スマホを開き明日のスケジュールを確認する。
寝室のドアがカチャリと開き、ちょこんっと妻が顔をのぞかせた。
「悟くんちょっと来て」
ふふふって、愛らしい笑みを浮かべて僕を手招きする。言われるがままに付いていき、ある部屋に入ると「じゃーん!」と手を広げられた。
そこには、桜の木の写真のジグソーパズルがある。まだ未完成で、残り数ピースってところだ。
この桜の木は……僕の見間違いじゃなければ、僕が夕凪にプロポーズした場所だ。
「ふふ、もう少しで完成なの。あと8ピース。この8ピースは悟くんと一緒にやりたくて呼んだんだ」
「どしたのこれ? これって、プロポーズした桜の木の写真だよね?」
「嬉しい! わかったの? 明日、結婚記念日でしょ? だから記念に作ったの。寝室にでも飾ろうと思って」
そう。明日は8回目の結婚記念日だ。さっきスマホでスケジュールを再確認した。ディナーに都内の三つ星フレンチレストランを予約してある。
「いつも悟くんにお祝いを準備してもらってばかりだから、何かしたいなぁって」
はにかんだような笑顔は、付き合い出した頃の夕凪を思い起こさせる。照れ臭そうに言葉を続ける。
「パズルなんてまるで子供みたいだから1000ピースにしてみたの。そしたら難しくて全然出来なくて。結婚記念日に間に合わないかと思った」
「僕にやってって頼めばよかったのに」
「うん、最初はね、2人でやろうと思ったの。でも、悟くん忙しそうだしこんなのやってられっかーってストレスになりそうで」
確かにこんな細かなパズルは好んではやらないね。ちまちましてるからさ。真面目な夕凪と違って僕は、コツコツっていうタイプではない。
「これ、ひとりで全部やったの?」
「ううん、実は途中100ピースほど恵くんに手伝ってもらったんだ。ほら、うちに来てたことあるでしょ?」
「あー、それで」
僕が出張から戻った日に見た二人は、ピースを拾ってパズルを崩しそうになった夕凪を、間一髪恵が止めたところだったようだ。
そういうことだったのね。