第3章 使用人
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中学を卒業する直前に学校では、後輩たちが卒業生を祝う会を行う。毎年恒例の行事で、クイズやら歌やら出し物やらで卒業生を楽しませて送り出すってやつだ。
まさに今それが行われていて、最後に卒業生に贈り物があるという。大きな横断幕が広げられて係の生徒が出てきた。その片側を持っているのは夕凪だ。
こんなとこにも首突っ込んでたのか……。真面目すぎんだろ。
写真の一件以来、夕凪とは口を効いてねー。少し冷静になって、携帯の事を謝ろうと思い何度か声をかけた。なるべく普通に、なるべく自然に。
でも夕凪は完全に俺を無視してくる。こっちが下手に出てりゃどんどん生意気になりやがって。俺もシカトすることにした。
夕凪が全校生徒の前で口を開く。スピーチのようだ。声を聞くのは久々だし、まあ、ちゃんと聞いてやるか。
「先輩たちの顔をひとりひとり卒業プロジェクトのメンバーたちと描きました。全員、笑顔を描いてます。笑顔はいいです。本人も見ている方も幸せな気持ちになります。でも何でもない日常の何でもない一コマ……なんて事ない顔、自然な表情、それもまた幸せで私はその日常は、それ以上の宝物だと思っています。――先輩ご卒業おめでとうございます」
――夕凪はいつの間にこんなに大人になったんだろう。俺よりひとつ年下のくせに、こんな事考えてこんな発言出来るのか? そして、夕凪の言葉を噛み締める。胸の奥から込み上げるこの感情は何だろう。