第3章 使用人
俺の中で何かが壊れるような音がしたのと同じ様な音が携帯からもした。パリッと弾けるような音。恐らく画面が割れた。俺が割った。
放射状にヒビが入った画面を見て、俺は携帯を閉じフローリングに放り投げた。
夕凪は慌ててこちらに駆け寄ってきて携帯を拾うと即座に開き、指を震わせながらピッピッと携帯を確認している。顔色は真っ青だ。
「ひどい、ひどいよ」
「新しい機種用意させるし」
「そうじゃないでしょ! 謝ってよ」
「割れたって口実でそいつともう一回写真撮れるから逆によかったんじゃねーの!」
「最っ低! もうこんなの撮れないもん」
いきなり夕凪は俺に術式を放ってきた。夕凪の中にも負の感情が芽生えたんだろう。それが呪力となって捻出されたのだろう。
俺は瞬時に無下限を発動したが、夕凪の術式はかなり強力なものだった。俺じゃなかったら腕一本ふっとぶレベル。
あの隣で写ってた男のためにここまで負の感情を増量させたのかと思うと腹立たしくて仕方ない。思ってもない言葉が口をつく。
「弱っ、オマエ術師なんかならねーでここで、五条家で働いてろ。そんなに大事な写真だったんならバックアップねーの? そいつ同じ写真持ってんじゃねーの?」
「悟くんはぜんぜんわかってない」
夕凪はますますひどい顔になった。怒りというよりそれを通り越して物悲しいような、そんな顔だ。
「なぁ、なんで俺にはそういう顔しか見せねーの? マジでブス」
それ以上、夕凪のそんな顔を見ているのが嫌で、俺の中で高ぶる手のつけられない感情を見せるのも嫌で、この負の感情の正体を、夕凪の前で露呈するのも嫌で、足早に部屋を出る。
夕凪はそんな俺に何か言葉を言いかけたけど、俺はあの野郎の名前が出てくる事を、あいつが好きなんだとかそんな言葉が出てくることを恐れて颯爽とその場を離れた。
なにも考えたくなかった。ただ、ひたすら本屋敷までの道のりを歩いた。