第16章 ★ Sweet Memories
すぐ隣の洋室に連れて行かれ、ガチャリとドアを閉められる。
「なに? どしたの」
「ねぇ、今日は何の日か知ってるよね?」
表情はいいとは言えないけど、声はいつもどおりだ。普段と変わらない感じで聞いてくるから、通常通り答えてみる。
「えっと確か敬老の日だっけ」
「そ、楽巌寺のおじいちゃんに新しい鼻ピでもプレゼントしようと思って……って違うでしょ。僕が三日ぶりに出張から帰ってくる日」
「ハハ、そだね、わかってるわかってる。予定より随分と早い帰宅だったじゃん」
「早いと何か問題でもある?」
いつもどおりの会話ではあるんだけど、どことなく刺々しい。
「もっと恵とふたりでいたかったー?」
「何言ってんの」
「僕がいない時に恵を呼んで、なーにやってんの」
奥歯に物が挟まったような言い方をする。これって恵くんにジェラシー感じてるのかな。いや、まさかね。
「ちょっと手伝って欲しいことがあってお願いしただけ」
「手伝いねぇ。何でも出来ちゃう僕がいるのに恵にお願いしたの? 僕が今日帰ってくるまで、待てなかったわけ?」
ぐぐっと大きな体を寄せてきて、あたしは壁に背中を追いやられた。上背のある彼が、目隠ししたまま顔を覗き込んできて、鼻先が触れそうになる。
「ねぇ、最近、恵と仲良すぎじゃない? 僕の前でイチャイチャしてんのって、わざと?」
「違うから。イチャイチャなんてしてないし」
「さっき、こうやって恵に触れられてたじゃん」
右の手首を取られて壁に縫い付けられそうになった時、コンコンとドアをノックする音がした。
「夕凪さんここですか?」