第16章 ★ Sweet Memories
出張から帰ってくるその日もギリギリまで頑張る。恵くんも手伝いに来てくれて残り200ピースを切る。その時、ちょっとしたハプニングが起きた。
ピースがひとつ足りないのだ。昨日まではあったのにと、周りをきょろきょろと見渡す。よく見るとそれは机の下に落ちていた。
「あった! 恵くん」
かがんでいた頭を上げながら拾い上げたピースを見せようとすると、その手首を恵くんに取られる。
「へ?」
「セーフ! あっぶね、今、思いっきりパズルに触れてぶっ壊しそうになってましたよ」
「え、気づいてなかった。ありがと」
その時、向かい合う恵くんの背後からあたしの名を呼ぶ声が聞こえた。悟くんの声だ。出張から戻ったみたいだけど、予定の時間よりも早い帰宅だ。
「たっだいまー」
襖が開いて恵くんの少し後方にその姿が見える。と同時に、恵くんはあたしの手を離した。機嫌良さそうな声で帰ってきたはずの彼はへの字口になっている。
「当主早かったね。お帰り」
「お邪魔してます」
恵くんは振り返って自然に挨拶をする。目隠ししてるからはっきりわかんないけど、なんとなくムッとしてそう。悟くんの手荷物を持とうと立ち上がって側に寄ると、サッと右手をとられた。
「夕凪さ、ちょっとこっち来て」
そのまま、あたしは、右手をひかれて和室を出た。