第16章 ★ Sweet Memories
指先を負傷したせいで校章を縫いつけるのが遅くなってしまったと、結局、恵は夕飯を五条家で食べて帰ることになった。その日のメニューはすき焼き。
「いっぱい食べて」
「ありがとうございます」
妻が松坂牛のロースを皿に取って、恵に食事の世話をしている。「遠慮して食べれないでしょ? 勝手に入れるから」と、食べ終わった皿におかわりの肉を入れる。
「当主」
ようやく呼ばれて、主である僕の番が来たと思い、取り皿を渡した。
「僕は肉の他に春菊と豆腐も多めに入れてね」
「そうじゃなくって……具も入れてあげるけど、先に子供たちの卵を見てあげて。殻がお皿に入っちゃってる」
……。
あぁ、子供の世話ね。
見ると桜のお皿には、割った時に紛れたのか、卵の殻のかけらがいくつか入っていて、空のお皿は卵がぐちゃぐちゃに飛び出して、手に白身がべっとり付いてる。
夕凪が僕に"手を拭いてやって"とテーブルの隅の濡れ布巾の場所を目線で示した。
「お願いできる?」
「誰だと思ってんの。当然でしょ」
「ありがとう」
妻の可愛い微笑みに、余裕の態度を見せるけど、恵の座っているその世話を焼いてもらえる場所が本来、僕の場所だからな!