第16章 ★ Sweet Memories
再び、妻は僕から恵の方に向き直ると、ハッと目を見開いたような顔をした。
「脱いで、制服」
「え、なんすか?」
「校章、取れかかってる。今、付け直しとくよ。なくなっちゃうと困るでしょ」
「あぁすみません、いいんっすか?」
「もちろん」
夕凪が恵の制服を肩から後ろにずらすようにして脱がす。その間に僕は手を突っ込んでいた制服のポケットをひと突きして、底を突き破った。これだけじゃ足りないよな。胸の内ポケットもついでにちぎり取る。
「夕凪、僕もさ、制服のポケット破れちゃってんだよね。こんなのすぐ直さないと不便だよね。しかも2箇所」
「え、そうなの?」
「うん、こことここー」
「じゃあ、恵くんのが終わったら縫い合わせるから制服脱いどいて」
返ってきた言葉を、頭の中で反芻させる。脱いどいてって言ったよな。恵には手を貸してたのに僕は自分で脱ぐのか。
そして僕の制服の直しはどうやら恵より優先順位が低いようだ。一瞬ふてくされた気持ちになったが、僕は大人だ。
そう思い直して自分で制服を脱ぎ、ソファーの背もたれにそれを掛けた。ちょうどそこへ、使用人がお茶を取り替えにやって来て、急須を置いた後、僕の制服を手に取る。
「これ、ハンガーかけておきますね。あら、奥様、内ポケット取れちゃってますけど、直しておきましょうか?」
「お願いしていい? もう1箇所ポケットが破れてるみたいなの。あたし今、手が離せなくって」
「もちろんです。制服お借りしますね」
なんていう間の悪さ。夕凪が縫い合わせたら彼女の優しい花のような香りが制服の繊維に移って、任務中にも妻の存在を近くに感じられるよなぁなんて、ほっこり妄想をしてたけど、それは恵の制服だけになりそうだ。
なんでだよ。