第16章 ★ Sweet Memories
「直哉も来るって知ってるよな」
「知ってるけど」
「その日、俺は五条の用事が入ってて、ハロパ行くの少し遅れんの」
「前、聞いた。それが何?」
「だから……」
何か言いたげに口を尖らせている。なに? みんなあたしが悟くんの彼女だって知ってる。仮装で黒猫なんてよくある衣装じゃん。ちょっとふざけてみよっかな。顔の横で猫の手招きポーズを取る。
「悟にゃんは、何がそんなに気に入らないにゃ?」
「やめろ、ぉまえ、そういうのを男が見たらな……」
「うん」
「発情するかもしれねーだろ……夕凪が夜のオカズにでもなったら」
「な、なに言ってんの」
「とにかく! 似合わねーんだよ、これにしとけ」
猫耳のカチューシャを上から外されて、代わりに、ジャックオランタンの被り物をガバッと被された。大きくてグラグラするし、目と鼻と口だけしか空いてない。
「重いよ」
「似合いすぎ。夕凪が可愛く見えるのはこれしかねぇ」
「顔が見えない方がいいってこと? ひどっ!」
「嫌い」って言いそうになったけど、それは我慢した。というのも、実は悟くんとこうやって時間を一緒に過ごすのは久しぶりだからだ。
このところ彼は忙しくて、あたし達は夏にプールに行ったきりデートらしいデートをしていない。
夏油先輩が高専を去ってから、特級呪術師が扱う案件はすべて悟くんの肩に乗っかかっている。
灰原の件で、術師を簡単に死なせてはいけないと上の判断が慎重になり、悟くんは後輩と同行する任務も増えていた。
忙しいのはあたしも同じだ。悟くんが空いてる日は、逆にあたしが遠方まで祓いに行っていたりと、二人の時間がなかなか噛み合わない。
そんな中、ハロウィンパーティは、久しぶりに二人とも任務がなくて、悟くんと仮装を楽しんで、パーティ後は一緒に過ごしたいなぁなんて思っていたのだ。喧嘩しちゃ駄目だ。
衣装合わせをした後も、デートする時間は取れず、あっという間にハロウィンパーティ当日となった。