第15章 エピローグ
――10分くらい経ったかな。少し気持ちが落ち着いた。
もう涙は収まった。静かに教室へと向かうと、途中で桜と会う。
「お母様遅いから心配した。早く来て」
あたしを迎えに来ていたようで、手を引かれて、再び教室の中へと戻った。
「飾ったから見て」と桜が言うから、指で指し示す方向に目を向ける。教室の後ろの絵が掲示されている場所。そこには、古い絵が一枚追加されていた。お父さんたちの絵に混じっている。
それは――ううん、そんなわけない。見間違い。だって、その絵は、ゴミ箱に捨てたはず。くちゃくちゃにして、破れてるはず。
何度も見る。だけどやっぱり、それは――1年生の時、あたしが絵の具で描いたお父様の絵だ。
「五条先生の注文が細かくて細かくて大変でした」
「え?」
「頼まれてたんです。絵を綺麗に元通りにしてほしいって。その度に、奥様のこと惚気てきて、そっちの相手するのも大変でしたけど」
補助監督のミカさんが苦笑する。彼女は絵画の修復士を副業でやっているのだと言う。
確かに画用紙の破れは綺麗に補修されていて、くしゃくしゃになってたはずなのに、アイロンしたみたいにシワがない。
色褪せてたであろう絵の具の塗料は自然な風合いで復元されていて、お父様は幸せそうな笑顔を見せている。
悟くんがミカさんと会っていたのは、浮気なんかじゃなくて、あたしが描いたお父様の絵の修復の指示をするためだった。
濡れてるとかなんとかって言ってたのは、汚れを特殊な液で濡らして、除去する話だったみたいだ。悟くんに声をかけようと見ると、桜と一緒に筒を片付けている。