第15章 エピローグ
「妻の夕凪ね」
「はじめまして。いつも五条先生にはお世話になっております。補助監督をしております」
普通に自己紹介受けてるあたしはなに?
でも桜の前だし、取り乱すわけにもいかず、「こちらこそ主人がお世話になっております」と通りいっぺんの挨拶を交わす。
「写真では何度も拝見しましたけど、リアルだとさらに綺麗な奥様! 呪術師やってたなんて思えないほど普通の方じゃないですか」
「でしょ僕の奥さんだもん。っていうか後半のそれは褒めてんだよね」
「五条先生がおっしゃってたんですよ、呪術師はイカれてないと出来ないって」
「君もいい具合にイカれてんだけどね。補助監督やめて呪術師やれよ」
いちゃついてるのか、指導してるのか、どっちにしても、あたしを話のネタにして、こんなところで2人の世界を作るのやめてほしい。
高専で耳にした、髪だの唇だのって2人の会話を思い出して、急に悲しい気持ちが押し寄せて来た。悟くんが桜を手招きする。
「桜、ちょっとこっち来て」
「はーい」
悟くんに呼ばれた桜は、ミカさんから何か受け取ってる。筒みたいなもの。それをのぞいた桜が嬉しそうに笑っている。まさか娘へのプレゼント?
まるで、悟くんとミカさんと桜が親子みたいで、あたしは遠くから眺めてる他人みたい。
今日は桜が楽しみにしていた授業参観で、幸せな時間を過ごすはずだったのに、なんでこんな思いしなくちゃいけないんだろ。
3人の姿がぼやけて見えにくくなって来た。ダメだ。このままじゃ目からこぼれ落ちちゃう。
「ちょっとお手洗い行って来ます」
ひと言告げて、あたしは、小走りにお手洗いへと駆け込んだ。あの日みたいに泣き場所を探した。
お父様の絵を見られた途端からかわれて、ひとりぽつんとなって、居場所をなくしたあの日みたいに。