第15章 エピローグ
覚えてる。ちょうど桜と同じ1年生の時だ。
大好きなお父様の顔を写真を見ながら描いたけど、目を隠すなんて犯罪者みたいって、変って、男の子たちにいじめられて、何も言い返す事が出来なくて悲しい気持ちのまま屋敷に戻った。
そしたら悟くんが声をかけてくれて、あたしは悟くんの前で大泣きしたんだ。
「……忘れてない。忘れるわけないよ」
「もうこれで泣かなくていいでしょ? 夕凪の父親はからかわれたりしないよな?」
「悟くん、そんな風にずっとあたしのこと思って――」
その時、悟くんのスマホが鳴った。電話に出ると、ばっちりって笑みを浮かべて、今行くって返事をする。あたしにはすぐ戻るからと言い残し、その場を去った。なんだろう。
桜と一緒に教室で悟くんを待っていると、ひとりの女性と一緒に現れる。
「お待たせー」
「お父様、その方だあれ?」
「いっしょに仕事してる補助監督のミカさんだよ」
「桜ちゃん、はじめまして。わぁ、五条先生にそっくり」
びっくりだ。この人はあたしが浮気を疑っていた補助監督の人。こんなところに堂々と来たの?
一気に興醒めした。
馬鹿馬鹿しい。さっき、一瞬でも、悟くんの言った"約束"に感極まって泣きそうになった自分にビンタしたくなる。
電話出て、すっ飛んでいったのはこの人に会うため?
この人は待ち合わせしてた場所じゃ我慢できずに学校まで来たの?
やっぱりあの日、電話で約束してたのはこの人?
娘にまで挨拶しちゃって、どういうつもりなんだろ。悟くんも悟くんだ。家族の前に連れてくるなんて、それってもう、存在を隠さないってことなんじゃ。