第14章 過去
「考えたのはプロポーズだけじゃないけどな。婚約の儀をあえて桜の季節に合わせたのも、花見に誘ったのも、思い出を辿ったのも、この桜道を歩いてんのも、ついでにいえば蛙も、全部オマエの一生の思い出になればって、そういう演出だからな」
「え?」
やっぱ気づいてねーかって笑う。
今日は、使用人の娘から悟くんの婚約者になった日だから、その新たな出発って事で、あたし達が出会った、14年前の桜の会の日と同じようになるよう、調整したらしい。新たな思い出をそこに足してほしいって。
まさか婚約の儀の日取りまで、それに合わせてるなんて思わなかった。今、この瞬間もあたしの幸せな思い出が、彼によって追加された。
草履で走りにくいけど、ちょこちょこと小走りをして、あたしは悟くんの和服に飛び込んだ。胸に身を寄せて、背中をぎゅーっと抱きしめる。
「世界一素敵。プロポーズの演出も何もかも一生忘れない」
「そんな可愛いこと言うと抱きたくなんだけど」
「え……っ、ちょ」
抱きしめ返されたと思ったら一瞬で唇を奪われた。溶接したみたいに唇と唇がしっかりくっつく。
満開の桜の木の下で交わされるキスは、まるで映画のワンシーン。身も心もとろとろに溶かされて、あたしの頬は、桜に負けないくらい濃い桃色へと染まった。