第14章 過去
キスの余韻がまだ残る中、あたしはお屋敷の方へと足を向ける。
14年前、使用人の娘としてこの道を歩いた時は、転ばないかとかそんな事を気にして足元ばっかり見ていた。桜は鮮やかでも、道そのものはどよんとしていた。
でも、今、お屋敷へと続くこの道は、輝いていて明るく見える。もう足元を見なくてもいい。転ぶ心配はいらない。彼と子供と一緒に過ごす幸せな未来を期待して、胸が高鳴っている。
「じゃあ、戻るか」
「うん」
悟くんが再びあたしの手を取った。変わらないのはこの力強くて温かい手。支えられているのは、あの時も今も変わらない。
お屋敷に向かって歩き出す前に、もう一度その手をぎゅっと強く握りしめた。
途中、強い風が吹き、満開だった桜の花びらが一斉にあたしと悟くんの上に舞い降りる。それはまるでフラワーシャワーのようなロマンチックな春の緩歩だった。