第14章 過去
「結婚してください」
思いがけない一言が春風に乗ってあたしの耳に届いた。
胸の奥がきゅっとつままれるのと同時に、予想してなかったことで少し戸惑う。――プロポーズだよね? でもなんで……。だって、あたしたち、
口を開こうとしたその時、彼が苦笑いを見せた。
「こんなんじゃ足りねーか。夕凪もヘビー級に僕の事、好きだったもんな花火んとき。続き言っていい?」
「う、ん。続きあるの?」
「覚悟して聞いて」
ゆっくりと首を縦に振った。
「僕は最強だけど、最弱なんだよね。夕凪ひとりいねーだけで、余裕なくなって頭ん中、全部オマエだらけになんの」
「……」
「夕凪がいねぇ人生なんて、幸せのカケラもねぇし、なんも楽しくねぇ。僕が五条に生まれたのは、夕凪と出会うためだったんじゃないかとすら思うし、死んでも守りたいって思うのは夕凪と宝だけ」
息をもつかせないその告白から真剣な熱が伝わる。彼は、ほんの少し空を見上げて寂しげな顔をしたけど、すぐに戻って愛おしげにあたしを見た。
「オマエがいるだけで幸せ感じんだよね。まぁーそういうこと。だから…………一生、五条家にいて、僕だけの夕凪でいて」
一度に沢山の言葉が降ってきて、あたしの脳は既にキャパオーバーだ。
婚約した日にこんなプロポーズをされるなんて思ってもみなかった。だって、もう……あたしは……。返事を待ってる彼に精一杯あたしは答える。