第14章 過去
その後も少しお花見をして、あたし達は帰り道を歩き出した。道の両側に埋め尽くされているソメイヨシノが枝葉を伸ばし、先端まで美しいピンク色に染まっている。
14年前、お母様とあたしと悟くんと奥様で、横一列になって、お屋敷まで歩いたのがこの道だ。
「手つなぐか」
「……うん」
バランスを崩して転びそうになったのを思い出す。悟くんがすごい力で支えて、その後も手を握ってくれてたんだよね。
「この桜道、懐かしい」
「草履でも転ばなくなったよな」
「もうすぐあたしも二十歳だからね」
「転ばなくても、この手は離さねーけどな」
「うん……ずっと繋いでて」
ちょっぴり照れ臭くて下を向く。足元は散った桜の花びらでいっぱいだ。桜のカーペットみたいってあの日も思ったっけ。そんなお屋敷へと続くフラワーロードを静かにふたりで歩く。
「この春で高専は卒業だから、僕はオマエがいる賑やかな屋敷に戻ってきて、夕凪と生活を共にしながら、呪術師をやっていくつもり」
「うん」
「まだちゃんと言ってなかったけど……」
急に悟くんの歩みが止まった。手を離して体をこちらに向けたので、あたしも歩みを止めて彼を見る。
カチャってサングラスを外して、白く長いまつ毛を瞬かせたかと思うと、「夕凪」って優しく名を呼んだ。
いつになく真面目な顔してるけど、なんだろ? 彼の空色の双眼が、桜とのコントラストでより一層、美しく見える。