第14章 過去
「夕凪は楽しいだろ? 僕といんの」
その一言は少し刺さった。
そう言えばさっきの婚約の儀でも言ってたな。「みんな楽しんでたからいいんだよ」って。
楽しいって大事な感情だ。それであの場が収まった婚約の儀がいい例。確かに悟くんといるのは楽しい。馬鹿だなって思うこともムカつくこともあるけど、それも含めて楽しいのかも。
北海道での生活にそれはなかった。
家の中は堅実で静かで心を乱されることはなかったけど、全然楽しくなかった。寂しかった。
それは悟くんが高専に入学した時も、思ったような気がする。寮に入って、悟くんがいなくなって、邪魔される事はなくなったけど、楽しくなくて、どこか寂しい気がした。
しだれ桜のおばあちゃまに向けてた顔を悟くんへと向ける。
「桜餅20個で許す」
「余裕で買ってやるけど、そんなに食うの? オマエのその頬っぺたの餅入れたら全部で22個に――」
「うるさいっ!」
こんな事言って、笑い合うのもきっと幸せなんだ。漫才にオチがついたところで、しだれ桜を後にする。