第14章 過去
一目散にお池を立ち去る。草履の動きを早めて曲がり道をスタスタと歩く。
「夕凪怒んなよ冗談じゃん。もう逃したし」
「蛙は嫌いって知ってるでしょ」
「ためになる話だっただろ? 見分け方」
「そんなの役に立たない! どこで使うのその知識。あたしが叫んでたの見て、爆笑してたじゃん。いつまでもガキなんだから!」
さっき、池のほとりで昔を偲んで、悟くんの六眼がどうとか寂しそうだったとか思ってた時、彼は蛙を見つけて捕獲したみたいだ。孤独なんかじゃない、やっぱりただのいじめっ子だ。修正、修正。
そのまま曲がり道を歩いて行くと、しだれ桜が顔を見せた。思わず足を止める。樹齢200歳のおばあちゃまだ!
今はもう215歳か。そんなしだれ桜の前に、子供みたいな二十歳が立つ。
「機嫌なおせよ」
「無理」
「オマエはこういう僕を好きになったんじゃねーの?」
「んなわけない」
「肩に乗せてねーだけ、マシになったろ?」
「論外」
「一種の愛情表現じゃん」
「歪んでる」
しだれ桜のおばあちゃまは、風にゆらゆらと桜色の長い手足を揺らして、まるであたし達のこと笑ってるみたい。漫才コンビか何かだと思ってる? いやいやちゃいまっせ。婚約者同士です。