第14章 過去
「悟くんとあたしが始まった場所だ」
「そうだな。こんなに池、ちっちゃかった?」
「体が大きくなったからそう見えるんじゃない?」
同じものでも違うように見えるっていうのはよくある話だ。初めて悟くんを見た時、生意気そうな子だと思ったけど、今思えば、少し寂しげだった気もする。
六眼っていう特殊な力を持って生まれてきて、周囲に特別扱いされて、五条も背負ってたわけだから。誰とも共有出来ない、悟くんなりの孤独もあったかもしれない。
「ためになるいい話、夕凪に教えてやるよ」
池を眺めていた彼が、突然珍しいこと言ってきた。
「なになに? いい話?」
「オマエに乗っけた蛙あったろ? あれに関連する話」
「えー、蛙の話?」
「思い出だろ。オマエにとっても僕にとっても欠かせない」
「まぁ」
蛙って聞いて、乗り気ではないけど、確かに思い出といえば思い出だから聞くことにする。
「トノサマガエルとアマガエルの違いはさ、その足なんだよね。ひっかかりやすいように吸盤がついてるのがアマガエル。吸盤がついてないのがトノサマガエル」
「ふんふん、なるほど……で?」
「理解した? じゃあさ、オマエの肩に乗ってた蛙はどっちだったと思う?」
「吸盤があるほうが落ちないもんね。アマガエル」
「正解」
「やった! って喜ぶことでもないか」
「……じゃ本番。コイツは?」
「え」
悟くんが手を開いてあたしに見せる。手のひらにちょこんって乗ってるのは、天敵の黄緑色した物体。
見たくないのについ足に目が行ってしまう。吸盤ついてるからこれは……アマガエル! って、回答してる場合じゃない。あたしは蛙が大っ嫌いなの! そいつの目玉がギロって動いた。
「きゃぁぁぁあー!」
お花見の場に似つかわしくないホラーな叫び声が、お庭中に響き渡った。