第14章 過去
婚約の儀はお昼過ぎには終わり、お屋敷の中はまた日常に戻っている。使用人たちは、それぞれの持ち場に戻って働いており、賑わしいやり取りが聞こえる。
外はものすごくいいお天気だ。雲ひとつない青空には小鳥が舞い、ピピッて愛らしい歌声を奏でている。
お庭は桜が満開を迎えていて、辺りはピンク一色に染まっていた。悟くんと縁側から空を見上げる。
「少し花見でもするか」
「うん、あたしも同じ事思ってた」
草履を履いて外に出た。すれ違う奥様に、少し出て参りますと声をかける。
「桜を見るの? 宝ちゃんは見てるから2人でゆっくり行ってらっしゃい」
気を利かせてくれたのだろう。ではお願いしますと宝は奥様に委ねて、門に続くお庭へと向かった。
和服姿で悟くんとお庭の桜を眺めるなんて、もしかしたら、初めて悟くんと出会った5歳のあの日以来かもしれない。
天を仰ぐと桜の木は、青空を隠すくらい見事な満開の花を咲かせている。ひらひら舞い降りる桜の花びらがまた美しい。
「桜の会の日を思い出すね」
「じゃ、思い出巡りでもする?」
「賛成」
悟くんも同じように懐かしく感じてたみたいだ。桜のトンネルを抜けるように並んで歩く。
見えてきたのは、まあるいお池。池の水面がお日様の光でキラキラしてる。この池のほとりに、小さな悟くんが立ってたんだよね。
あたしは少し離れた所からモンシロチョウを目で追ってた。