第14章 過去
"ハッ"
言い切ってから、しまったと口に手を当てる。周囲を見ると、呆気に取られた顔が並んでる。
……やってしまった。挑発されて、つい嫌いって言っちゃった。当主にも奥様にも聞こえたよね? やばい。慌てて平静を装う。
「あの、仲は特上です。ご安心ください」
頭を下げると、大きな笑い声が広間を包んだ。宝がそれにびっくりして、ギャアー! って誰にも負けない声量で、泣き声をあげる。
「こりゃ、悟も夕凪も宝も全員、規格外だな。ハハっ」
叔父様が明るく言い放って、婚約の儀はまるで宴会でもしたかのような賑わいで終わった。
本来婚約の儀は、もっと静寂に慎ましやかに終わるものらしい。すごく反省した。お母様も奥様と当主に謝っている。あたしもそこに参加する。
「ほんとに申し訳ありません」
「いや、悟らしい婚約の儀だった。子供の頃の2人の喧嘩を見てるようだったよ」
当主は奥様と笑ってらっしゃるけど不覚だ。松の間で、ひとりで挨拶した時は、ちゃんと厳かに出来たのに、悟くんが加わると何でこうなるんだろ。
「こんなふざけた婚約の儀になったの、悟くんのせいだから」
「みんな楽しんでたからいいんだよ。ほっんと、オマエは飽きねぇ奴だな」
上出来、上出来って、頭をよしよしされた。意味わかんない。婚礼の儀は挽回するんだから、厳粛にやるんだからって心に誓う。――その結果は、惨憺たるものだったが。