第3章 使用人
テスト前になると学習担当の側仕えがやたら机に座らせようとしてくる。マジで夕凪の離れには助けられた。逃げるようによくあいつの部屋に駆け込んだもんだ。
夕凪はだいたい嫌そうな顔してる。まあ、デフォルト。俺が学校で守ってやってる事に感謝くらいしたっていいのにな。なんも言ってこねー。
クソ真面目に勉強ばっかしてやがる。呪術師になるのに関係ないだろうが。ちらっと教科書をめくりつつ夕凪を見る。
「なぁ、学校って行く意味ある? どうせ呪術師になんのに関係ないよな」
「お勉強は大事って当主が仰ってたよ。ちゃんと勉強やんなよ」
「早く高専行きてー。褒美とかないと勉強とかやる気しねぇわ」
「欲しいもの全部手に入ってるくせに褒美ってなによ」
は? なんだその言い方。いつからそんな生意気な口聞くようになったんだ。欲しいものなんか手に入ってねー。お前はなんも俺にくれねーじゃん。プレゼントも感謝の言葉も……。
俺は夕凪のそんな鈍さや態度にイラついて、久しぶりにちょっといじめたくなった。
褒美はそうだなぁ……
ゆっくりと夕凪の顔をのぞこきむ。
「キス」
夕凪は目を見開いて俺を見てる。そんなまじまじ見てくるなら今すぐしてやってもいいけど!
一度やってんだから別にいいだろって軽い気持ちで人口呼吸の話をしたけど、夕凪は目を逸らしてそれはキスとは違う! ってムキになってる。顔真っ赤! 可愛いとこあんじゃん。
「彼女にキスしてもらいなよ」
あ!? なんだそれ? さっきの可愛いは撤回。
上に投げた消しゴムをキャッチして握る。
「いねーもん」
「作れば?」
「……いいの?」
彼女を作るも作らないも俺の自由だ。なんでそんな事を夕凪に確認しているのか俺もわからねー。だけど……夕凪はなんて答えるんだろ?
「あたしの許可なんて必要ないでしょ、使用人なんだし」
「あっそ」
ほんとつまんねーやつ。可愛くねえ。使用人、使用人言うな! ここは学校じゃねーのに。俺は夕凪の言葉にムカついたけど、その一方でなぜかどんより心が曇った。すっきりしない。そして、言われた通り彼女を作った。
夕凪がそうしろって言ったから。オマエのせいだからな。