第14章 過去
――望むような娘になれば五条家ならきっと幸せになれる。
実際、あたしとお母様は、理由はわからずとも、この言葉だけで、五条家なら幸せな未来を手にすることが出来ると信じて、生きる事が出来た。
それは、お父様が最後に残した愛だったのかもしれない。
「お父様が望む」というのは、お父様に恥じない生き方をするという風にも解釈出来る。
それを常に心に持って、愛のある環境で、幸せっていう不確かなものを確かだと信じて生きることが出来れば、それこそが幸せを引き寄せることになると、それで幸せを手にしたなら、どんな答えでも正解だと、お父様は笑っているような気がした。
姿は見えないけれど、今もお父様はあたしの中に生きている。
五条家と同じように強く人を愛するお父様の熱が、この松の間に漂っているような、そんな空気をあたしは感じた。