第14章 過去
「じゃあ、主人が、望むような娘に育っていれば五条家なら幸せになれる、と言ったのは一体なんだったんでしょう」
これに関しては、未だ誰もわからないままだ。奥様が、お父様にそっくりというあたしの目を見つめる。
「なぎちゃんは今、幸せ?」
「はい、幸せです」
「なら、お父様が望むような娘さんに育ったってことよね。その意味は……お父様しかわからないし、それぞれに考えたらいいんじゃないかしら」
ふふって可愛らしく微笑まれた。奥様の愛らしいソプラノが松の間にふんわりとした余韻を残す。
奥様の仰るとおり、その答えはお父様しかわからない。答え合わせは出来ない。だけど、あたしは少し考えてみる。お父様がそう言ったのは――
五条家のお屋敷にいれば、あたしは愛情深い娘に育って、そしたらいずれ誰かを深く愛し、愛され、幸せになれる。
そんな意味だったのかな? その幸せの相手が、まさか悟くんになるなんてそこまでお父様は思ってなかっただろうけど。
……いや、どうだろ?
ひょっとして、悟くんの肩をトントンした時に、何か感じた? お父様は目を覆っておかないと、ひどく痛むくらい空気に敏感だったんだもんね。
お父様が小さな悟くんから感じ取った熱は、強く人を愛する力で、無下限呪術の術式相伝に必要なもの。
五条家の救済措置を受ければ、そこに悟くんが住んでることは知ってたはず。あたしが、愛情深い娘に育ったら、いつか愛し合うかもしれないってそう思った?
それはちょっと考えすぎか。
本当の意味はお父様しかわからない。けどなんだろ? お父様は今ここにいて、朗らかに笑っているような気がする。
夕凪がそう思うならそれが正解なんだよって、言ってくれた気がする。