第14章 過去
「私は嬉しかったのよ。悟がなぎちゃんを選んだこと。五条家の事を一発で見抜いた術師のお嬢さんなら、きっと悟とうまくいくと思った。桜の並木道を一緒に歩いた時、2人が幸せになれるよう願ったわ」
「じゃ僕は夕凪と出会うべくして出会って、父親から娘を託されてた感じ?」
「そうねぇ、でも、なぎちゃんがいいって選んだのは悟のその目よ。誰も口添えなんかしてない。聞いた話によると、他の女の子なんかお構いなしで、ずっとなぎちゃん見てたらしいじゃない」
「は、見てねーし。てか覚えてねーし」
「照れなくてもいいわよ。なぎちゃんは嬉しいわよね、最初から一途な悟」
「奥様、それは一途っていうより、きっと意地悪です。あたしがいつ着物に乗った蛙に気付くのかと、観察して、蛙にビビるその瞬間を笑いたかっただけです。悟さんが一途になったのはここ最近」
「夕凪が言うと何一つ冗談に聞こえねーんだよ。ここ最近ってなに」
悟くんが面白くなさそうな顔を見せると、笑い声が松の間に響き渡った。
温かな熱が大気に伝わる。あたしもお父様と同じ術式を持つから、ほんの少しだけ、五条家の熱を感じ取れる。お父様ほどいい目は持ち合わせていないけど。