第14章 過去
「咄嗟にお名前を聞いたわ。一瞬でそこまで五条家を見破るそんないい目を持っているのはどこの術師かと気になって。そしてその時、伝えたの。こんな事はあってはいけないけど、もし何かご家族が困るような事態が起きた時は、五条を頼ってくださいって」
遺言書の事は、奥様はもちろんお父様に一言も漏らしていない。救済措置で、娘が五条家の婚約者になる可能性があるなんて考えてもみなかっただろう。
けど、お父様は五条家に接して、その時思ったのかも。
愛が根底に流れてるこの家系なら、自分が命を落とすことがあって、残された家族が身を寄せることになっても、お母様もあたしもお屋敷の中で幸せに生きていけると。
「あなたが生まれたこともとても嬉しそうにお話されてたわ」
目を細めて、奥様はあたしにその時の会話を再現してくださった。
「実はうちにも最近、娘が生まれまして、まだ生後2ヶ月のひよっこなんですけど、なかなか気が強そうで、泣き出したら止まらないんですよ」
「悟も同じです。とんだヤンチャ坊主でまだ、あーあーしか言えないのに偉そうで、気に入らないと怒って泣き散らしてます」
「ハハハ、似たもの同士かもしれませんね。もし、娘が術式を持っていたら、悟くんとは高専で会う事になるのかな。学年はひとつ下ですが」
「そうね。気が合うかしら?」
「悟くん、娘が、もし君の後輩になったら仲良くしてやってくれよ。娘のこと、頼んだよ」
お父様はそう言って、悟くんの肩にとんとんと優しく2回触れたらしい。奥様との会話はそれで終わり。
その数年後、悟くんが5歳を迎えた時、五条家にて、救済措置を必要とする術師家系の中から、使用人と悟くんの遊び相手を募る桜の会が開かれる事になる。