第14章 過去
奥様が当時の事を振り返り、お話しされる。
「みんなね、生後半年の悟の事をすごく褒めてくださるの。一番多かった褒め言葉はなんだと思う?」
その答えを考える時間を、少しあたし達に与えられたけれど、奥様は答えを求めず、お話を続けられた。
「一番はこれ、『六眼誕生』。そりゃ当然そうよね。数百年に一度しか生まれないんだから。みんな六眼を褒めて悟の目を珍しそうに見て行かれたわ」
「ねぇ、当主」と可愛らしい語り口で当主に相槌を促す。「そうだったな」とお披露目会を思い出す様に首を縦に振りながら、当主も奥様に微笑みを返された。
呪術界の上層部からは、よく六眼を産んだと労われ、それはそれで嬉しかったと奥様は言う。
そして、2番目に多い褒め言葉は、綺麗な子だと、イケメンの坊ちゃんだと言われること。悟くんが赤ちゃんの頃から顔が整っていたであろうことは、宝を見ればなんとなく想像出来る。
「でね、100人が100人、悟の六眼と外見を褒めちぎって行かれる中、あなたのお父様の番が来て……」
なんだか、その場にいるような臨場感でドキドキしてきた。お母様も初めて聞く話のようで、真剣に耳を傾けている。
「目隠しを外されて、悟を覗き込まれたんだけど、悟を見て、第一声にこう言ったの…………人一倍愛されて生まれてきたお子さんなんですね、って。そして人を愛し抜く力を持ってるって」
こんな事を言ったのは後にも先にもお父様だけだったと言う。どうしてそんな風に思うのかとお父様に尋ねたら、見ればわかりますよと、朗らかに笑ったらしい。
術式で空気を扱うお父様は、「時々、人から大気中に熱が発せられるんです」と奥様に説明したとか。
「怒りや高揚も熱を発するんですけど、お三方には、それぞれ人を愛するような熱が見えるんですよね。しかもかなり強い。これは五条家に代々伝わる特有のものですか?」
お父様のその言葉に、奥様はとても驚いたという。知るはずもない五条の術式遺伝の秘術を見抜かれたような気がしたと。