第14章 過去
これは五条家に来る前の話だけど、お父様の亡き後、あたしとお母様の生活はかなり苦しかったらしい。
お父様が残したお金は、今は亡きおじい様が、当時、体を患っていて、その治療代や手術、入院費にあてられていた。
そのためお母様の元にはほとんどお金が残らず、お母様はあたしを保育園に入れて朝から晩まで働き通しだったという。
小さかったからはっきり覚えていないけど、夜遅くまで保育園にいて、お母様が恋しくて、泣いていた記憶はある。
みんなが当たり前に食べてるお菓子や持ってるおもちゃは一切買ってもらえず、お洋服も少し袖や丈が短くなって、きつくなっても我慢して着てた。
お母様は過労で一時期、体を悪くして働けなくなった時期があり、血縁を頼りたかったけど、駆け落ち同然で出て行ったから、実家に甘えることも出来ず、生活を切り詰めて、あたしを育てていたって話だ。
御三家の救済措置は不定期に行われており、禪院家や加茂家でもその当時、使用人を募っていたらしい。
お母様は一刻も早くそれに頼りたかったと思うけど、お父様の残した言葉を守って、五条家の救済措置があるまで待ったと言う。
「さらに、主人はこう申しておりました。もし、夕凪が自分が願うような娘に育っていれば、五条家ならきっと幸せになれるって」
悟くんが当主と奥様の方を向く。
「なんか知ってる? 夕凪が五条家なら幸せになれるって、どういうことだろうな?」