第13章 幸せのピース
使用人を使う話もその一つ。それは、さっき話をした。夕凪は「そんな偉そうな事はできない!」って言ってたけど、最後はナイスダディの僕の話に納得したみたいだ。
他には、婚約の儀の話もある。3月の大安に決定してていて、年が明けたら夕凪は婚約者として、当主と母親と僕に、いわゆるちゃんとした挨拶をしないといけない。よろしくお願いします的なやつ。
五条家ってこういうのが面倒なんだよな。でも御三家の集まりも呪術界の古株たちの集まりも、こういう作法や挨拶あるし逃げれね。夕凪はそんなのとっくに承知だろうし、僕と違ってきちんとやりそうだけど。
他に話しねーといけない事は……って考えてたら、夕凪に「普通って何してたの?」って聞かれる。
まだ近況報告の途中だった。普通は普通だろ。おもしれー話なんかないのが普通だ。夕凪に話を振ることにする。
「オマエは北海道で何してたの?」
うーんって思い出すように頬杖をした後、あっ!って言って口を開いた。買い物に行って、一度だけ、街で高専生を見かけたって言う。懐かしくなって術式で音声を拾ったらしい。
「高専の子たち、悟くんの話をしてたよ」
「1年のやつかな。北海道の呪霊調査あったかも。で、なんて?」
「1級呪霊を5分で祓ったって、すごいって言ってたよ」
呪霊相手に時間使ってられっかって容赦なく次々祓ってた頃だ。
「ほんとに5分で祓ったの?」
「時間が惜しかったからな。1秒でも早く祓ってオマエを探したかったから」
夕凪の深碧の目がビー玉みたいに輝いて、愛おしげに僕を見ている。僕にとってはそれは普通の話だったけど、夕凪にとっては嬉しい話だったみたいだ。