第13章 幸せのピース
部屋の中いっぱいにアップルティーの香りが広がっている。夕凪が好きな紅茶だ。百貨店から取り寄せておいた。
コトッとテーブルの上にカップを乗せたソーサーが置かれる。
「え、なんて?」
「だから七海がサラリーマンするんだってさ」
「なんでー?」
「呪術師はクソらしい。今、就活してる」
「うっそー」って高専の人間なら誰しも一度はする反応を夕凪も見せている。
夕凪が高専を辞めた後、何があったかって話になってる。大きなトピックスは一通り話した。
「で、悟くんは、どうしてたの?」
「どうもこうも別に普通」
バターサンドの二つ目に手を伸ばす。挟まってるレーズンがなかなか美味い。
アップルティーの中の砂糖が溶けきってねーから、室内インターホン鳴らして、「ちゃんと溶かして持ってきて」って使用人に注意した。
「悟くん、それはそこにあるスプーンでぐるぐるかき回せば溶けるんじゃない?」
「何でも自分でやったら、教育になんねーだろ」
「教育?」
「使用人の教育だよ。成長しねーだろ」
「なるほど、まるで先生みたい。……何でも、自分でやらない、と」
んなことメモるな夕凪。まぁ、オマエは先生っていうより生徒って感じだよな。
先生――この話もしてーけど、先にしないといけない話がいくつかある。