第13章 幸せのピース
夕凪が僕を見つめて笑みを見せれるくらい和らいできた頃、使用人の中に母親を見つける。
「お母様!」
大きな声を出して側に寄って行った。
「妊娠の事をひとことも言わず急に出て行ってごめんなさい」
泣きそうな夕凪の顔を見たら流石の僕も、もらい泣きしそうになる。母親の方は既に泣き崩れてる。
夕凪の安否を数ヶ月間、ずっと気にして心配していたんだろう。と同時に娘の幸せも。
母ひとり、子ひとりで2人の絆は強い。
よく覚えてねーけど、夕凪はここに来たばかりの頃、泣いてはしょっちゅう母親に抱きついて、母親にここでの生活に慣れるよう励まされてた。
五条家に来るまでは生活が苦しかったみたいだから、ここで必死に頑張ったんだろうな。
夕凪が泣いてたのは僕のせいで、それを言われると返す言葉がねーけど。しばらくすると夕凪の母親が僕のところにやって来た。何度も何度も頭を下げる。
「夕凪を探して迎えてくださってありがとうございます」
「もうどこにも行かせないから」
北海道に滞在してしばらく荷造りを手伝ってたけどそこでの生活は侘しいもんだった。小さいテーブルで飯食ってて、古い汚れた家具の中で暮らしてて。壁やカーテンは色が褪せてるし、どっかから隙間風が入ってくるし。
いずれ出て行くつもりだったからって夕凪は僕に説明したけど、それにしたって耐えられねー。
二度と夕凪にこんな暮らしさせねー。
何一つ足りないもんなんてないってくらい満足させてやるって気になった。五条家に来てよかったと、僕の遊び相手して、さんざん泣いたかもしんねーけど屋敷にいてよかったと心底思わせてやるから。