第1章 出会い
五条家のお付きの人に誘導されて、あたしと悟くんは並んで歩いた。しだれ桜の近くを通る。
ピンクの枝葉がゆらゆら揺れて、200歳のお婆ちゃまが、おや、また会ったねぇって挨拶してくれてるみたい。
そこを抜けると曲がりくねった道になり、あたしは転ばないように下を向いて歩いた。
悟くんも袴と草履で歩いてるのに慣れているのか立派な御拾いだ。
足元には桜の花びらがいっぱい落ちていて、桜のカーペットを一歩一歩踏みしめる。
「なぎちゃんちゃん見て、綺麗よ」
悟くんの右側で歩く、これまた桜よりも美しいような女の人があたしに声をかけてくれた。
下ばっかり向いてたから、きっと元気がないように見えたのだろう。優しい人。
顔を上げると道の両側にはソメイヨシノがたーくさん咲いている。
「わぁー」
足元のことは忘れて右に左にきょろきょろし、淡いピンクに目を奪われたその時だった。
小石を草履の踵で踏んでしまい、足首がぐらっと右に傾く。
繋いでいたおかあさまの手が離れるくらい激しく体がぐらついて、あたしは悟くんの方に倒れ込みそうになった。
ドミノ倒しみたいに倒れちゃう!
おかあさまごめんなさい!
悟くんごめんなさい!
そう思ってぎゅっと目を瞑ると、あたしの右手を誰かが掴んだ。
その手はあたしとピッタリのサイズだったけど、まるで大人の男の人みたいな力強さで身体を支え、転ぶ事なく、あたしは真っ直ぐそのまま起立した。
「大丈夫? 怪我はない? 悟、そのまま握っててあげなさい」
さっきの綺麗な女の人の声だ。
見ると、あたしの右手は悟くんに繋がれていた。っていうことは、さっき強くあたしを引き上げた手は悟くんだったの?
あたしが使うチカラよりも強いチカラ。
尋ねてみたかったけれど、悟くんとはこの時、なにも話をしなかった。ただ手を繋いでお庭から五条様のお屋敷までの道のりをゆっくりと歩いただけ。
途中、強い風が吹き、満開だった桜の花びらが一斉にあたしと悟くんの上に舞い降りる。それはまるでフラワーシャワーのようなロマンチックな春の緩歩だった。
――だが、これは別に祝福すべき出会いとか未来を約束した二人とかそういう話ではない。