第1章 出会い
「このエメラルドグリーンのおべべがよかったのかもね。あなたの深碧の眼にも合ってるし」
そう言っておかあさまは悟くんがあたしを選んだことをものすごく喜んでいた。
これで一生安泰だと安堵したような、胸を撫で下ろすようなお顔をされたことを今でも鮮明に覚えている。
おべべっていうのは着物のこと。エメラルドグリーンに白い牡丹が刺繍されたおべべをこの日あたしは着せられた。
おかあさまの読みはある意味、正解だった。だってそのエメラルドグリーンに同化してあたしは肩に乗っかった蛙に気づかなかったんだから。
悟くんがあたしを選んだ理由……それは
「こいつ、蛙、ビビんねーもん」
この一言で知った。
悟くんは、あいつ、とあたしの事を指差した後、近づいてきて、じっとあたしのおべべを見る。
その視線の先はあたしの左肩に向けられている。見るとカエルが乗っていた。いつから?
ずっとここにいましたよって顔でそいつはぎょろりと眼球を動かす。あたしはぎゅーっと体が縮こまった。蛙は大の大っ嫌いだ。
あまりの恐怖に慄くと、人はひゃーという言葉すら出ず、ただ身動きが取れなくなるらしい。今まさにそれが実証されている。
悟くんは無表情だった顔を少し緩めて、片方だけ口角をあげて意地悪そうにあたしを見る。間違いない。これは悟くんの悪戯だ。
知らない間に蛙を肩に乗せられていたんだ。そういえば周りの女の子たちは、きゃあきゃあ騒いでいたかもしれない。泣いていた子もいたような……。
きっと同じように蛙の洗礼を受けたのだろう。ピンクや紅色のおべべを着ている女の子が多かったから、蛙の緑がそこに乗っかればまさにそれは補色。目立って気持ち悪くて仕方なかったろう。
なんかむかついてあたしは、蛙は死ぬほど嫌だったけど、歯を食いしばって怖くないフリをした。
そして、蛙を見ながらチカラの流れを少し肩に集約させる。すると蛙は驚いてぴょんと肩の上から芝の上に下りお池に向かって跳ねて行った。
悟くんがへぇって言う。
ひょっとしてチカラが見えてる?