第13章 幸せのピース
五条悟でもこんな事があるのかと驚かされる。いつも余裕で動じないのに。ふと、夏油先輩が離反した時に、悟くんが高専で、座り込んでいた姿を思い出した。
「うん、どこにも行かない」
「連れ戻せてよかった。もう一回ここで言うわ。オマエが好き――この部屋が原点だったんだろ? あの盆の夜、抱き合った時、言ってなかったもんな」
「……ちゃんと気持ちは伝わってた。ごめん、ごめんね、変な屁理屈言って」
ずっと後悔してたのかな? 好きって言わなかったこと。でもその言葉は、当時のあたしたちには重い言葉だったと思うし、好きって言わなかったでしょって責めたのは、悟くんを忘れようとして、自分で自分に言い聞かせた言いがかりだ。
けど、言葉は大事かもしれない。「親しい間柄なら、言わなくても同じ思いで通じあってるだろ」っていうのは、夏油先輩にしてもあたしにしても通用しないって思ったのかも。
背中に回した手をぎゅっともう一度抱きしめる。悟くんは、逆に腕の力を緩めて、壊れ物みたいに優しくあたしを抱きしめた。
しばらくそのままあたし達は、ずっと互いを抱きしめていた。何があってももうこの人から離れないと心に誓う。あのお盆の夜と同じように……。
抱擁がゆっくり解かれた時、悟くんに告げた。
「今、この瞬間を新たな原点にするね」
あたしが微笑むと、悟くんは安心したような笑みを返してあたしの言葉に二度頷いた。
――原点か。もやっとした中から何かが浮かび上がりそう。あともう一歩でつかめるような。あたしの幸せを形成してる大切な原点。