第13章 幸せのピース
「こんなハッピーエンドある? こんなドラマある? 五条家の歴史に残るお話よね……」
「紙芝居にして代々、坊っちゃんに読み聞かせましょうよ」
そんな声が聞こえる。あたしと悟くんが付き合っていた事は、お屋敷の中でもそこそこ有名な話になっていたようだ。
でも遺言による婚約者は絶対だから、2人は結ばれる事はないんだろうと、この悲恋に胸を痛めていたらしい。そんな素振りは見せないようあたしには出来るだけ普通に接していたようだけど。
悟くんの婚約者候補が集まるパーティーの日にあたしが手伝いしてるのを見ただけでも、胸が苦しくなったと言う。さらに、その後いなくなった事で、あたしの心中を察した使用人たちは、みんなお屋敷で涙したとか……。
まさか、あたしが妊娠してるなんて思わないし、さらに悟くんの遊び相手だったあたしが、遺言の婚約者だったなんて誰も予想してなくて、皆、この劇的な恋の結末に感動して、胸を打たれているといったところだ。
あたしはすごく恥ずかしいけど、悟くんは「これくらいの方が盛り上がっていいんじゃない?」って言う。
「そもそもひい爺さんのシナリオが手がこんでるじゃん?」
「でもそれには妊娠するとは書かれてなかったよね」
「婚約者が突然いなくなるとも書かれてなかったよな」
結局、あたしたち2人が五条の遺言物語を盛り上げてしまったんだ。とんだ2人だ。