第13章 幸せのピース
夕凪は遺言の婚約者だとあたしを捜索するにあたって分家に公表したらしい。分家だけじゃない。今ここにいる全員に知らされている。
あたしが五条家に戻りやすいよう悟くんが環境を整えてくれたんだろう。
季節は冬なのにお祭りみたい。時折、冷たい風がつんと吹く中、それとは対照的な温かくて賑やかな声が飛び交って、あたしの胸を熱くする。
出迎えしてくれてる使用人の中には、涙ぐんでる方もいた。あたしの安否を気遣ってくれていたんだろう。そして、その使用人の列の中からあたしが見つけたのは……。
「お母様!」
声が届くように大きな声で呼んで側に寄る。お母様のお顔は涙でぐしょぐしょだったけど、あたしが近寄ると笑顔を見せて、頬に触れて「無事でよかった」と声を絞り出して迎えてくれた。
腕に抱えた宝を見つめて「可愛い子」って目尻を下げる。きっと心配してたよね。けど信じてくれてたんだよね。
「お母様、妊娠の事をひとことも言わず急に出て行ってごめんなさい」
「何かを覚悟して五条家を出て行ったんだと思ってたけど、まさか子供が出来てたなんてね。心配した……けど、どこかで強く生きてるって信じてた」
「うん、うん」
ただ頷くくらいしか出来ない。あたしの幸せをきっとここからずっと願っていた。
「坊っちゃんの側に戻って来れてよかった。夕凪が遺言の婚約者だったなんて、まだ信じられないけど、愛する人と結ばれて本当によかった」
安堵と喜びが混じったような涙がずっとお母様の頬を伝っている。それから後は悟くんに「夕凪を探して迎えてくださってありがとうございます」と何度もお礼を伝えていた。
周りにいた使用人たちもお母様にもらい泣きしたのか、次々と涙を見せ始める。