第3章 使用人
悟くんは手から携帯を取り上げると、そのまま腰を下ろして、バランスを崩したあたしを開いた足の間に座らせた。あっという間に悟くんにすっぽり包まれてしまった。こんなにデカかった?
「じゃあ一緒に撮ろうぜ。いい顔しろよ」
悟くんが右手を高くかざしてる。彼のハイテンションな声を受けて顔をカメラの方に向けたけど、いい顔なんかする余裕なかった。耳元で聞こえた声が近すぎて……。
せめてチーズとか言ってほしかった。彼は自分のタイミングで携帯のボタンを押した。実に悟くんらしい。
カシャ
あたしの携帯に1枚写真が保存される。一瞬の出来事。気付いたら悟くんの足の間に挟まれていて、そのままカメラを見て。
こんなの絶対変な顔になってるよ。てか、女慣れしすぎじゃない? 悟くんはこんな体勢、緊張しないの? 背中が悟くんの熱でじわっとあったかい。
あたしは悟くんが携帯いじってる間にごそごそ、そこから抜け出した。
「あ、夕凪、お茶おかわりよろしく」
「はいはい」
抜け出したあたしを見て、容赦なくこき使う。ま、小さい頃から一緒ってこういうこと。立ち上がって空いたグラスを持ち、部屋の隅にある小テーブルの方へ向かった。
よく考えたら2人で一緒に写真を撮った事があまりない。夕凪は死ぬからダメって何度か悟くんに言われた事がある。
悟くんの写真はどこからか呪詛師に漏れる事が多くて、その時に誰か写ってたりすると親しい人だと判断されて人質として狙われたり嫌がらせされたりするって。
だからか……。
顔をはっきり思い出せないのは。
写真のように固定された顔が記憶に残るというよりは、日々の動きの中の顔を覚えているから、絵を描けと言われるとわからなくなるのかもしれない。顔って日々成長するし表情も変わるしね。