第3章 使用人
時々、悟くんはサングラスをかけるようになった。
目がひどく疲れるらしい。学校内でも負の感情を強く感じる時は目が痛いんだとか。街に祓いに行く時はもはや必須アイテムだ。
だから余計に顔を思い出せない。5歳から何を見てきたんだろう。サングラス一つで顔が分からなくなるなんて使用人失格だ。
五条の屋敷に戻りあたしは悟くんを離れに呼ぶ。ご機嫌をよくしてもらうために、子供の頃から好きだった和菓子とお茶でも出してみる。
「んだよ、用事って」
面倒くさそうにしながらも、彼は離れに来てくれた。お菓子に手を出したからしばらくはここで食べてるだろう。
あたしはじーっと見る。サングラスしてたらほんとわかんない。
「ちょっといい?」
そう言ってあたしは悟くんのサングラスを外した。急に近付いたあたしに悟くんはびっくりしたみたいだ。
何度かまばたきをしたけど悟くんの目ってこんな大きかったけなー? 見れば見るほどに透き通るような綺麗な青い瞳。
「なんなの?」
「秘密」
これは卒業プロジェクトだ。話すわけにはいかない。顔の輪郭とか、耳の位置とか、眉の形、芸術的な鼻梁。
うーん、すごいな、ほんとに悟くんはイケメンだ。
「そうだ! 写真撮らせて」
絵を描くなら写真見ながらの方がいい。当時まだ珍しかったカメラ付きの携帯をあたしはお母様から与えられていた。
机の上にあった携帯を持ってきて彼を撮ろうとカメラを向ける。すると悟くんが近づいてきて、パシッと手首を掴まれた。
「はぁー、また誰かに頼まれたの?」
「違うけど」
「違うんならなんで撮んの?」
「自分用、あたし用だよ」
「は?……わけわかんね」
悟くんの頬がほんのり染まった? かと思うと、掴まれた手首をぐいっと引っ張られ、あたしは悟くんに引き寄せられる。
うわぁぁぁ、なに?