第12章 ★ハワイ旅行
「時計ですか? えっと……」
立ち上がって敷いてたバスタオルをめくってチェアを見るけどそんなものはない。
「ないですね」
「あっ、あのヒカッテルキラり見えたの腕時計カモシレナイ」
「どこですか?」
チェアの隙間から見えたっていうから下を覗いてみる。なさそうだけど。でも確かにキラっとしてるものはある。あれかなー? 少し手を伸ばしてみた。取れそうで取れないから体を伸ばして手を伸ばす。
「モウスコしデスネ。スミマセン」
声がすごく近いと思ったら、その人がすぐ側にいる。影が覆ってきて、振り返ったらすぐ近くに体がのしかかるように近づいてる。
「きゃっ」
「だいじょぶ。シー」
シーじゃない。体触れてない? 背中っていうかあたしのお尻にくっついてない? やだキモい! 呪力使っていいよね?
「可愛くてヒトメボレして――ウッ!アウチッ!!!! がウッ、うっぅ」
この体勢から抜け出そうと体を捩った時、ものすごい歪んだ顔で男の方から体が離れた。その奥に悟くんが見えて、どうやら……局所を後ろから蹴り上げられたみたい。
「あうっ! ぐぅうアア」
「ハワイにこんな獣が生息してるとはなー」
「ぅぅぐぁあ……」
かなり痛そう。女のあたしにはわからない痛みだけど。男は身を丸めて横たわってて、悟くんが上から踏ん付けてビーサンでぐりぐりしてる。
「これか? 腕時計って。金メッキのブレスレット。そこに落ちてたわ。剥がれてきてっけど」
「ふっ、ふっ、エラソーな日本人メズラシイ。オレ、州のキックボクシングの優勝者。シラナイのかわいそう」
「何か言ったー?」
男は立ち上がろうとしたけど、悟くんが片足でぐりぐり踏んづけたまま起き上がれないみたいだ。
うあ? あ? って戸惑ってる。悟くんは声のトーンは静かだけど怒ってる。顔見たらわかる。こんな状況で警察でも来たら大変だし、悟くんに声かける。