第11章 急展開
胸に熱いものがこみあげてまた涙が出そうになる。こんなに幸せでいいのかな。幸せすぎて怖くなる。現実じゃないんじゃないかと、頬っぺたをつねりたくなる。
ベビーベッドに目をやると、宝が両手と両足を元気に動かして遊んでる。パパに名前を呼ばれて嬉しいの?
信じられないけどこれは、夢物語でも空想でもなく、14年も前から紡がれていた遺言によるラブストーリー。最後にこんな展開が待ち受けていたのは、ひょっとして曽祖父様のシナリオ? 術式を遺言に仕込んでらした? より純度の高い深い愛を、悟くんと育むために。
ふとカーテンの隙間から見えた白いものが気になって、窓辺に向かうと悟くんもやってきて、あたしの少し後ろに立った。カーテンを開けると雪がちらついている。
「わぁ」「おぉ」
2人揃って声をあげた。東京人のあたし達にはなかなか味わえない感動だ。
「北海道って感じだな」
ぎゅーって後ろから悟くんにハグされた。包まれてあったかーい。体の前で交差された彼の腕にそっと手を添える。
「綺麗だね」
そのまましばらく、ちらちらと舞う雪をふたりで眺める。
「タヌキー」
「あたしのこと? こんな時にそれ言う?」
「ほんとにいんだよ、ほら」
悟くんが指さした方に顔を向けると小動物みたいなのが確かに見える。結界が破られて、山から入り込んで来たのかも。
「やっぱオマエに似てるよなー」
「似てない!!」
あたしが怒って悟くんが笑う。古い家屋の中で賑やかな声が響き渡る。
雪がちらちらと舞い降りる北国で悟くんは20歳の誕生日を迎えた。
親子3人で初めて一緒に過ごす夜。それはとってもささやかだけど、外の寒さとは裏腹に、温かくて幸せに満ち溢れた夜だった。