第11章 急展開
「ねぇ、あたしが中学の時に話したスピーチ覚えてる? 卒業生を祝う会で」
「また随分と古い話を持ち出してきたな……覚えてるよ。笑顔の話な。僕だけひでぇー顔、描いてあったよな」
「そっくりだったでしょ?」
思い出してふと笑いがこみあげる。釣られて悟くんも笑う。湯呑みに継ぎ足されたお茶を悟くんがずずっとすすった。
「あの時あたしはスピーチで、悟くんのことは――悟くんとの何気ない日常は、あたしにとって宝物だって言ったの」
「あぁ、覚えてる。夕凪すげぇなって思ったしその辺りからオマエを好きって思ったんじゃねーかな」
「そうなの? だったら嬉しい。だからね」
「うん」
「子供はあたしにとって宝物だから。悟くんと変わらない宝物だから」
「うん」
「名前は、宝(たから)。 五条宝(ごじょう たから)」
「最高じゃん」
湯呑みがコトンと優しく音をたてた。今まで見たことないくらい素敵な国宝級の笑顔があたしに向けられている。気に入ってくれた?
「宝を産んでくれてありがとな。夕凪……愛してる」