第11章 急展開
あたしが悟くんの部屋で見たのは、偉大な遺言のほんの一部で、あたしが婚約に至らない場合の最終措置だった。
あたしはずっと五条家に大切に守られてきて、長い年月を経て、今、悟くんと結ばれたのかと思うと、この遺言に関わってる当主、奥様、本家の方、すべての方に感謝の思いでいっぱいになる。
5歳のあの日――桜吹雪が舞い散るお屋敷のお庭で、初めて悟くんと出会った日、目が合ったあの時に、あたし達は結ばれてた。婚約へのストーリーが始まってた。
あたしはお屋敷の中で悟くんと遊びながら一緒に育った。共に時間を過ごし、泣いて笑って怒って喧嘩して、互いに影響し合う中で愛を育み、なるべくしてあたしは悟くんの婚約者になった。そんな気がする。
すぐ隣にいる悟くんを見ると彼もあたしを見返す。
「悟くんありがとう。桜が満開に咲き誇ってた五条のお庭で、あの日、あいつってあたしを選んでくれて。その目であたしを見つけてくれてありがとう。こんなに幸せな未来をくれてありがとう」
「オマエは蛙にビビってなかったからなー。呪力も見えたし」
「やっぱりそれが決め手だったの? 呪力はともかくあたし蛙は大大大の大っ嫌いだったんだよ」
「ふっ、んなわけねーだろ。好きだったんだよ、オマエのことが。最初に見た時から惚れてた。膨れっ面して人形みたいな可愛い顔したオマエに」
微笑むと同時に顔を寄せられキスされる。照れ臭くてきっとキスで誤魔化してんだよね。そうでもしないとどんな顔していいのかわかんないんだと思う。あたしも同じ。
だからたくさんキスする。キスを終えたらまた相手の顔を見て照れ臭くなるからいつまでもキスする。キスしてる間は見なくていいでしょ。ただ目を閉じて、感触を確かめあう。
好きっていう想いを。