第3章 使用人
悟くんは自分に生まれながらの婚約者がいるのか? それが誰なのか知ってるのかな?
聞いてみたいけど、なんでオマエがそんな事聞くの? だったら何なの? とか逆に質問されて面倒くさいことになるのはわかっている。
お母様に一度だけ悟くんの婚約者について尋ねたが、さあーと言って、はっきりした返事はもらえなかった。
それについてお屋敷内で話せる人があまりいないという。「ご法度な話題」そんな空気が流れるという。
ただ調査に調査を重ねた結果、この2点だけは間違いないようだ。
悟くんが20歳になったら婚約の儀式があるという事、
そして、五条家の当主の妻は代々、3世代前、つまり悟くんにとって曽祖父にあたる方の遺言によって決定されているという事。
遺言状に記された婚約者を妻にする事で、子への生得術式の遺伝率が上がり五条家の術式相伝がなされるらしい。
子孫の婚姻相手を何代も前の代が指名することは難しい。ひとりだけ名前が上がっているということは恐らくないだろう。
その家系の呪術師が死んでしまう事だってあるし女の子が生まれないことだってある。
呪術界の中からある程度、家を選別して、その中から婚約者を五条家で選ぶといったところだろうか?
いずれにせよ、真正面から悟くんの婚約者の話に向き合ったところであたしの未来はあまり変わらない。
悟くんの曽祖父様がお元気でいらした時代、尊家に呪術師はひとりもいなかったのだ。
つまり一家の存在すら曽祖父様に知られていない。そんな風に自分のご先祖様のことを調べた自分も馬鹿らしいと思う。
ただあたしは、もし、もう婚約者が決まっているのならあまり悟くんに近付きたくないだけ。
こないだみたいにキスとか好き放題言う次期当主に振り回されないようにしたいだけ。今から心の準備をしておきたいだけ。