第11章 急展開
悟くんが手に持つ巻物の表紙には曽祖父様のお名前が書いてある。やはり悟くんの部屋であたしが見た遺言書と同じものだ。悟くんが巻物の紐に手を掛けた。
「お宝オープン〜♪」
ノリが軽すぎるでしょ! そして、この口ずさみは……悟くんとよく見てた某テレビ番組の、お宝を鑑定している時のメロディだ。五条家の家宝に対してなんちゅー罰当たりな。この人と一生を共にするのか……今は考えないことにする。
悟くんの横に並んでカーペットの上に座る。遺言書を――巻物をここに広げるって言うからドキドキして目の前のスペースに目を向ける。
ゆっくり紐が解かれて、ごくりと唾を飲みこんだ。ちょうど1年ほど前、緊張して震えながらその紐に手を伸ばした事を思い出す。
「こいつはさ、少し、保管状態がよくなかったのか、素材がよくなかったのか、和紙の滑りが悪いんだよね。そして軸が時々ひっかかる」
説明を加えながら、悟くんがどんどん巻物を解いていく。時々、カクンと軸の滑りが止まるような動きを見せながら紙が次々広げられ、しばらくすると悟くんの手が止まった。
「婚約者について書かれている部分はこのあたり」
息を呑んで上から覗く。知ってる。悟くんの部屋であたしが見てしまった内容と同じだ。御三家の本家筋以外から選ぶか、術師家系のリストの中から適齢の婚約者を選ぶかっていう制定法が書いてある。最後に側妻は認めないと結びがあって終わり。
「夕凪が見たのはこのあたりなんだろ? ここで、軸がひっかかってガチガチしてんの。この文言にはまだ続き、っていうより前に遺言があって」
和紙を破らないよう気を付けながら悟くんが軸を丁寧にまわす。すると、婚約者について書かれた部分がさらに見えてきた。
「うそ! 婚約者だけで、こんなに長い遺言が?」
「術式相伝の秘術も書かれてるからなぁ」
その箇所を指で示してる。あの時――悟くんの部屋で写真を片付けようとして、遺言書を見つけた時、あたしはすごく慌てていた。長老が来るかもしれないから、見るって決めたんなら早く見て早く片付けなきゃって……。
確かに和紙が扱いにくくて、軸の動きが悪いっても思ったけど、巻物なんて解いたの初めてだし、まさかこの遺言にこんな前文があったなんて!